ヒミツのみわちゃん

雑記ブログです。

星空行き列車

こんにちは、miwaです。

閲覧ありがとうございます。

貴重なお時間でこのブログを読んで下さる

あなたへ感謝申し上げます✩°。⋆




綺麗な夜景は、会社で残業をしている人達に

よって作られている。と誰がか言った。



そんな事を思いながら、

ぼんやりと目の前の景色を眺める。



私も少し前までその中のひとりだったが、

今はビルの屋上に立っていた。



限界だった。




私には何もない。







大学を卒業してから入社した会社は

朝から晩までの長時間労働に加え

毎日残業続きの激務だった。



初めての就職だった為

この状態が異常か正常かも判断できず、

こんなものだろうと必死に働いた。



いつも家に帰るとへとへとで

適当に食事とお風呂を済ませると

布団に入り、とにかく眠る。

そんな日々が過ぎていった。



そして、働き始めて3年。

仕事にもだいぶ慣れた頃、新入社員が入ってきた。



可愛らしい、背の低い小柄な女の子。



大人しそう。

それが最初の印象だった。





新入社員の歓迎会、

居酒屋での席で、彼女は私の斜め向かいに

座っていた。



乾杯のあいさつが終わり、談笑が始まると

一気に騒がしくなった個室は、熱気に包まれ

湿度がグンっと上がった気がした。



「あの新入社員の子、なんかかわいんだよね。」

同僚の由香が3杯目のビールジョッキを片手に

独り言っぽく話す。

今日もハイペースだ。



「え、関わりあるの」



「まあ、少し。美代と一緒の部署だよね」



「うん。まだ話したことはないけど」



由香は今年から別の部署に移動になったため

彼女と接点があるのは意外だった。



「廊下ですれ違った時、話し掛けたの。『すてきな髪色ですねー』って」



躊躇なく話しかける姿を想像して

思わず笑ってしまう。



遠慮がないけど、不思議と嫌な感じがしない

気立ての良さが由香にはあった。



「最初は驚いてたけど、私が変質者じゃないって分かったのね。『ありがとうございます』って、お礼を言われた。」



「彼女、怖がってなかった?」



「笑ってくれた。『私もこの髪色、気に入ってるんです』って言いながら照れて赤くなってた。なんかさ、リスとかハムスターとかそこら辺の小動物を思わせるかわいさっていうの?」



よほど彼女のことを気に入ったのだろう。

人の好き嫌いが激しい由香が、ここまで上機嫌に他人の話をすることは珍しかった。



「うん、大人しそうな、良い子に見える」



「大人しかったかな。いや、大人しくはないかも。女の社交辞令ってあるじゃない。例えば、かわいいって言われたら、あなたもかわいいよ。って返すあれ。彼女にも言われたの。『先輩の髪色もとてもすてきです』って。だから私も『ありがとう』って返して、大抵の話はそれで終わるはずでしょう?」



「え、由香、社交辞令として髪色を褒めたの」



「ちがう。私は本当に奇麗だと思ったから、話し掛けたの。でも大体のそういう会話は社交辞令だよねってこと。私は違うけれど」



そう言うと、心外だと言わんばかりに

ビールをぐーっと飲み始めた。



『私は違うけれど』と、

力を込めて言い切ったところに

負けず嫌いが出ていたのが、おかしかった。



「それで?」



由香のやけ酒を

止める代わりに次の話を促す。



「それで、あれ、今なんの話してたっけ」



「新入社員の髪色がすてきだった話」



「あー!そうそう!髪色がすてきで。私の髪色も褒めてくれたから、ありがとうって返して。それで確か、そのあとその子に『もし嫌じゃなければ、通っている美容室を教えていただけませんか。』って言われたんだ!そうそう、思い出した。」



だいぶ酔いが回ってきたらしい。

私がまだ1杯目を飲み進めている中、

由香は4杯目に突入しようとしていた。



「それで、社交辞令じゃなく、本当に知りたくて、聞いてきたんだろうって純粋な気持ちが伝わってきたんだよね。これは私の偏見かもしれないけど、大人しい子なら、そんな会話が長引きそうなことはわざわざ聞かずに、とにかくその場から早く立ち去るために素っ気ない対応するでしょ。私ならそうするね。だから彼女は大人しくない!」



滅茶苦茶な言い分。とんでもない偏見だ。

大人しい人代表として、抗議しようかとも

思ったが、相手は既にろれつが回っていない。



何を言っても無駄な気がしたので

喉まででかかった言葉を押し込めるように

クーニャンを一口流し込んだ。



近い将来、重たい由香を、一人で抱えてタクシーに

乗り込まなければいけないことを想像すると

深いため息が出た。


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