ヒミツのみわちゃん

雑記ブログです。

星空行き列車 2

こんばんは、miwaです。
閲覧ありがとうございます⋈*
大切な時間でこのブログを読んでくださる
あなたへ感謝を申し上げます¨̮♡︎





「ちょっと、トイレ。吐きそう」



もやは飲み会の恒例。
深酒をする由香を
最初は止めていたが、途中から止めても
無駄だということに気づき、今はもう
好きにさせておくことにした。



ふらふらとした足取り。
壁やら近くにいる人の肩やらに手をかけ、
バランスをとりながら中腰で
トイレへ向かう姿を横目で見送る。



残されたビールジョッキの縁には
薄ら口紅の痕が残っていた。





話し相手が退場し、手持ち無沙汰になった
私は、さっきまで話の渦中にいた
彼女を一瞥する。



彼女は、テーブルの上に置いてあるお酒を
両手で包むように握りながら、
強ばった表情で隣に座っている男性社員の
話に相槌を打っていた。



要注意人物、37歳独身男。



私も入社したばかりの頃、飲み会でこの男に
捕まったことがある。






最初は、気さくな人だと思った。
どこの大学出身なのかとか、
なんでこの会社に入社したのかとか、そんな
当たり障りのないことを質問され、
私は聞かれたことに対して、
ひとつひとつ丁寧に答えた。



それが次第に、過去の恋愛話になり、
その話題から派生して、好みのタイプや
経験人数など、踏み込んだ話を
根掘り葉掘り聞いてくるようになった。



徐々に違和感を感じ始めた私は、
曖昧な相槌を打ちつつ
何とかその場から逃れる方法を考える。



助けを求めるように周りの人たちを見たが、
それぞれが会話に夢中だったり、
おそらく気付いてはいるが、関わりたくないのか
見て見ぬふりを決め込まれたりで、
誰も助けてはくれなかった。



私が何も言わないのをいい事に、
会話の途中でさりげなく、頭や体に触れてくる
下心丸出しの行動には、もはや会社の先輩としての
威厳はない。



威厳はないが、入社したばかりの私は、
仮にも先輩という肩書を持った目の前の
人間に、逆らう勇気はなかった。



縋るように掴んでいたグラスは
氷が溶け、手の中でぬるくなっている。



帰りたい。そう思っていると、
男は水の入ったピッチャーを手に取り
自分のグラスに注いだ。



聞いてもいないのに、アレルギーで
お酒が飲めないことを説明された。



びっくりして、私はそのまま、水を
飲む様子を凝視してしまう。



これまで、下ネタやボディータッチなどの、
失礼で理性がない行動は、お酒が入っている
せいだと思っていたのに、違ったのだ。



男は素面だった。






なんとか、その場をやり過ごし
飲み会はお開きになった。



会計後、お店の外にたまって
にぎやかに談笑している
人たちに挨拶を済ませ、二次会には参加せず、
逃げるようにそこから離れた。



表に出ると、風が涼しく
気持ちいい。後ろめたさを感じながらも、
歩く度にどんどん遠くなる声に安堵した。



アパートまでの道のりには、
「タケモトクラブ」と書かれた看板を掲げる
古いレンタルビデオ店や、
明かりはついているが、営業しているのか
していないのかよく分からない中華料理店、
深夜までやっているラーメン屋の
他に、コンビニが数件。



まるで、現代に置いてけぼりをくらったかのような
空虚な佇まいの建物が並ぶ、
静かで、寂しいこの道が気に入っていた。



夏の夜風に酔いはさらわれ、
頭はすっきりと冴えている。



コンビニに寄りアイスでも買って帰ろうかと
ぼんやり考えていたところ、後からいきなり
肩を強く掴まれた。



驚いて振り返ると、
あの男が立っていた。





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